忍び寄る影−12

2004年8月9日
突然の携帯のコールに、剛は飛び上がるほど驚く。

「フッフッフ。キブンハ、ドウカネ?コウフン、シテイルノダロウ?ヘンタイメ。
 デハ、コンドハ、トイレニ、イッテモラオウ。
 ソコノ、トイレハ、キツエンセキノ、イチバン、オクニアル。」
これが目的だったのだ。
仏心で禁煙席の一番奥、つまり目立たない場所を指定した訳ではなかったのだ。
トイレには、店内を横断する形で、
喫煙席の客全ての目にさらされなければ行くことができない。

キャップを目深に被り直し、剛は席を立った。
喫煙席のテーブル一つ一つの前を通るたびに、談笑していた客達の会話が凍り付いた。
そして、通り過ぎた後に、ヒソヒソと囁きあう声が聞こえた。
短パンの裾からはケツが半分ほどはみ出し、
穴だらけのTシャツからは白いロープが除いているのだから当然だろう。

やっとの思いでトイレまでたどり着き、個室ブースに入った。
再度、自分の姿を眺め溜息をつく。
携帯がまた鳴った。

「インラン、ロシュツショーヲ、タノシンデ、イルカネ?
 サゾカシ、キャクモ、テンインモ、オドロイテ、イルコトダロウ。
 イマヤ、チュウモクノ、マトダナ。
 ウラヤマシイ、カギリダ。ハッハッハ。
 デハ、ツギノ、シジヲダス。」
携帯を握りしめ、この恥さらしショーが早く終わることを願うしかなかった。

「Tシャツト、タンパンヲ、ヌイデ、
 テアライノ、カガミノ、マエデ、オナニーシロ。
 サッサトシナイト、ダレカガ、ハイッテクルカモ、シレンゾ。
 ダシタラ、キョウハ、コレデ、ユルシテ、ヤロウ。」
目の前が真っ暗になる。
今は誰もいないトイレだとしても、いつ、誰が入ってくるかもしれない。
時間が長引けば長引くほど危険は大きい。

剛は急いでTシャツと短パンを脱ぐと、それを片手に掴んで、鏡の前に飛び出した。
そして、既にギンギンになっている自分自身を抜いた。
鏡の中では黒いキャップをかぶった男が、縄を掛けた筋肉質な肉体を晒している。
手洗いにマラを突きだし、一心に扱き上げている。
先走りで濡れた亀頭は淫らに光り、グチュグチュと音をたてている。
恐怖と興奮の狭間で絶頂がなかなかやってこない。
剛は焦りながら必死にマラを扱いた。
トイレの外の物音に注意を払っていては、いけそうにもない。

鏡の中に映る淫乱な雄の姿に集中して興奮を高めた。
そして、頭が真っ白になっていくと同時に、その時は来た。
玉がキュッと縮むような感覚とともに、今までに経験したことのない快感がこみ上げる。
次の瞬間、亀頭が膨らみ、鈴口が開き、大量のザーメンが鏡を直撃する。
数度に渡り勢いよくザーメンが迸る。鏡の中の男がザーメンまみれになった。

我を取り戻した剛は、ボロ切れを身にまとい、トイレを飛び出した。
その足でキャッシャーに向かい料金を払う。
伝票は怪訝な顔をしたフロア係が、席から持ってきてくれた。
金を払うやいなや店を飛び出し、階段を駆け下りる。
チャリに乗り、全速力で帰途につく。
身体の芯に残っていた快楽の炎がチロチロと剛の心を焼いた。
二度とあのファミレスには行けない。。。

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