白砂のあえぎ−28

2004年2月9日
言葉少なに俯き加減の結城が後に続く。
稽古帰りの下宿までの道を2人でゆっくりと歩いた。
心なしか結城の歩調は遅い。
ともすれば、辰巳との差が開きそうになる。
辰巳の歩調はいつもとさほど変わるわけではなく、
結城に合わせる風でもなかった。

10分も歩けば下宿しているアパートだ。
鉄製の階段を一段飛ばしで上がると、軽い金属の音が跳ねる。
辰巳の部屋は2階の一番奥だった。
辰巳は鍵を取りだし、木製のドアを開けると、結城を招き入れた。
男1人の部屋は簡素なもので、布製の衣装ケースと小さなテーブル、
パイプベッドに小さな冷蔵庫だけだ。
辰巳の性格か部屋の中は小綺麗に片付いており、
古い作りのアパートなのだが侘びしさはなかった。
ただ、壁が薄いのか隣のテレビの籠もった音が漏れ聞こえていた。

「適当に座れよ。」
辰巳は部屋の隅の小さな冷蔵庫から缶ビールを取りだし、結城に手渡す。
「お疲れ!」
言葉と同時に缶を合わせると、2人は喉を鳴らした。

「足崩せよ。」
緊張のためか辰巳も言葉少なだ。
小さな部屋で手が触れる距離に身を寄せ、
お互いの出方を窺う。

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