白砂のあえぎ−17

2004年1月29日
気が付いたとき、やはり辺りは真っ暗で、街灯の光がうっすらと差し込んでいる。
どうやら射場に伏せているようだった。
引き剥がされた胴着や袴が射場の板の間に散乱している。
身体を起こそうとした辰巳のケツに、強烈な痛みが走り、顔をしかめる。
やはり夢ではなかったのだ。
ぬるりとするケツに手をやると、赤と白が混じった粘液が付着した。
悔しさと情けなさに辰巳は呆然とした。

翌日、定例の稽古だったが、辰巳は稽古を休んだ。
クラブを辞めようかとさえ考えた。
しかし、こんなことで調子に乗り始めた弓道を放り出すのは悲しかった。
椅子に座ることさえ苦痛となる毎日を送りながらも、
次回の定例稽古には顔を出そうと決心した。

部室に入って辺りを窺う。神林はいなかった。
ホッと息を吐きながら、辰巳は稽古着に着替える。
ふと入り口を振り返ると神林が立っていた。
辰巳は目を逸らさずに神林の顔を睨み付けた。
神林は臆する風でもなく、微笑んで見せた。

『何を考えてるんだ。この先輩は。。。』

さっさと着替えを済ませると射場に向かう。
ケツの痛みで腰に力が入らず、その日の稽古は散々だった。
いつもの居残り稽古も止めて、さっさと着替え、
部室を後にしようとすると、辰巳の肩を掴むヤツがいる。
振り返った瞬間、神林が辰巳の頬にキスをした。
一瞬のことで、周りの誰も気が付いていない。
辰巳は目を丸くして神林を眺めた。

 「この間はすまなかったな。今度は痛くないようにするよ。」
呆然と立ちすくむ辰巳を余所に、神林は歩き去った。

『そういう問題じゃないと。。。思うんだけど。。。』

辰巳は、しばらく突っ立っていた。

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