白砂のあえぎ−13

2004年1月25日
辰巳が1回生の夏。
大学に入ってから始めた弓道に嵌った辰巳は、
早く他の経験者に追いつこうと、毎日のように居残り稽古をしていた。
夕闇迫る射場に人影はなく、蝉の声が名残惜しそうに響いていた。
巻き藁から昇格して、射場での稽古が許された辰巳は、
1日に数百本の矢を放っていたのだ。
体中の筋肉が軋み、指は赤く腫れ上がっている。
射形が狂い、つのみが効かずに弦に耳を打たれたことも何度あったことか。
それでも歯を食いしばり稽古を続けた。

その甲斐あってか、辰巳の腕はどんどん上達し、
高校時代の経験者と肩を並べるまでになっていた。
自分で決めたノルマに達し、十分な満足感と疲労感を感じながら、
射場に正座した辰巳は、神棚に向かって礼をする。
日は完全に陰り、射場の明かりを落とすと、
あたりは真っ暗になった。

暗闇になった射場に人の気配を感じた。
それは突然に現れた。
外の明かりでシルエットになった人影は誰だか判断がつかない。

「誰?」
人影は無言だ。

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