白砂のあえぎ−1

2004年1月13日
辰巳は射場の隅に立って、一人で稽古をする新入生の姿に見とれていた。

 「大したものだ。射姿が美しい。。。」

心持ち脚を拡げて立ち、捧げ持つように弓矢を構える。
顔を真っ直ぐ的に向け、凛とした清々しさが漂う。
静まり返った射場では、射手の鼓動さえ聞こえてきそうだった。
ギリギリと弓を引き分けながら親指を立てた押し手を伸ばし、
引き手を耳の直ぐ後ろまで引き絞る。
弓が流れるような弧を描き、微妙に振動していた。
呼吸を整えつつ狙いを定め、引き手が弦を離した瞬間に、
矢がたわみ一直線に射出される。
つのみを効かせた弓が反転し、弦は押し手の甲に跳ねた。
パンと小気味よい音ともに矢が的のほぼ中央に的中した。

定例の稽古ならば、ここで「あた〜り〜」と声が響くはずなのだが、
水を打ったように静まり返った射場には夕陽が映えるばかりだった。
残心を残したまま微動だにしない結城の首筋に一筋の汗が光った。
胴衣から伸びた細い首筋に光る汗は、妙に艶めかしいものだ。

結城がゆっくりと振り返る。
「先輩。いらっしゃったんですか?」
 「休みだというのに精が出るな?
 大したものだ。新入生と思えない。
 確か高校で弓道部に所属していたんだっけ?」
「はい。お恥ずかしい。」
辰巳は、結城に近づきながら話しかける。

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