スリル−31

2003年10月10日
 「分かってると思うけど、ゲイだから君を弄んだんじゃなくて、
 そういう犯罪者がたまたまゲイだっただけだよね。」
彼の目はあくまでも澄んでいる。
 
 「俺が謝るの変な話だけど、
 それくらいでゲイを許してやってくれないかな?
 何の罪もない人を痛い目に合わせる君は、
 彼らとあまり変わらないとは思わない?」
俺の目から鱗が落ちた。

そうだ。そうだったんだ。
何か心に引っかかる棘の原因はそれだったんだ。
いくら関係のない同性愛者に復讐してみても、俺の気が晴れる筈がないじゃないか。

「ごめんなさい。貴方の言うとおりです。」
俺は項垂れて、紅茶を一心に見つめた。
彼は立ち上がり、俺の横に立つと、俺の身体を抱きしめた。
 
 「可哀想に。辛い目にあったね。
 君は悪くない。君は悪くない。」
俺は無意識のうちに彼に抱きつき、しゃくり上げた。
彼は静かに俺の頭を撫で、
 「君は悪くない。」
何度も繰り返し唱え続ける。
心の中に凝り固まっていた黒い氷の塊が、涙とともに溶け出し、流れていくような心地よさを覚えた。
彼の体温と静かな鼓動が俺に伝わってくる。
まるで母に抱かれる幼子のように、安心した心地でいつまでも抱き締められていた。

 「落ち着いたかい?」
俺が泣きやむのを待って彼が離れる。
何だか名残惜しいような気さえする。
俺が泣き笑いをしてみせると、彼は眩しいほどの微笑を返してくれた。
大人の包容力を感じた。

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