彼の背中から温もりが伝わってくる。
彼の鼓動が俺のそれと重なる。
同じ空気を吸い、同じ景色を見て、人の温もりを感じている。

 「キスして。」

シンチーが首だけねじる。
俺は迷わず唇を重ねた。
視線の隅で目を丸くしているカップルが見えるが関係ない。
シンチーを強く抱きしめて彼の舌を吸った。
俺の硬くなったモノが当たるのかシンチーが尻をもぞもぞさせる。
唇を放すと彼が見つめ返しながら言った。

 「ホテルに戻る?
 もう一度抱いてくれる?」

俺は迷った。
彼を抱きたい。
彼が欲しい。
全てが欲しい。
彼の中に俺の全てをブチまけたい。

しかし、
「よそう。」
彼が怪訝な顔で俺を見つめる。

「君を愛してしまったから、
 だから、ここでお別れしよう。
 一生君のことを忘れない。
 でも君は俺のことを忘れてくれよ。」
 「そんな。僕だって忘れないよ。」
「ありがとう。
 でも、君は女の子が好きだろう?
 結婚して子供を産んで、幸せな家庭を持たなきゃ。
 俺には無理だけど。。。」
シンチーが悲しそうな顔をする。
どう答えて良いか分からないのだろう。

「君と別れるのは辛いけど、
 君と知り合えたことで俺は元気になったよ。
 また、失恋したけど、
 でも、これからも生きていく元気が出てきたよ。」
彼は多くを語ろうとせず、ただ、黙って頷いた。

「ありがとう。シンチー。
 俺はこっち、君はあっち。」
それぞれが帰る場所を指し示す。

「じゃ。元気でね。」
 「うん。元気で。。。」
俺は振り返らずに地下鉄の駅に向かった。

まだ、日は高く、こんなに空は青いのに風を冷たく感じた。
しかし、ここの空も故郷の空も繋がっているんだ。
しっかり自分の足で立って見上げれば、
そこに青い空がある。
求めさえすれば、そこに。


      Night view in Hong Kong  完

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