呆然と香港島を見つめたままの俺をシンチーが心配げに覗き込む。
 
 「どうしたの?」
「もうお別れなんだなって。」
俺は、少し傾きかけた太陽を仰いだ。
ともすればこぼれそうになる涙を見せたくなかった。

 「ベンチに座ろうか。」
シンチーが頷く。
俺達はコンクリートの味気ないベンチに腰掛けた。
ひんやりとした感触がジーンズを通して伝わってくる。

「寒くないかい?」
 「ちょっと寒いね。」
「こっちにおいで。」
俺はベンチに深く腰掛けると両脚を開いて両手を拡げた。
シンチーがもじもじと戸惑っている。

「おいで。」
静かに語りかけると、シンチーは俺の脚の間に腰掛けた。
上着を拡げてシンチーを包み込むように抱きしめた。

 「暖かい。」
照れながらシンチーが呟く。
たまらなくなって彼の髪に顔をうずめた。
俺の肩が僅かに上下するのを感じているのだろうが
彼は何も言わなかった。

ただ、俺の両手に掌を重ねる。

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