暗闇だった空が薄紫色に光り始める。
高層ビルの群れが、季節はずれの案山子のように佇んでいる。
フィルムを早回しにしたように次第に空が明るくなる。
金色に輝く太陽が地平線に顔を出し、香港のくすんだ街を焼き尽くす。

昨夜の想い出は蒸発し、新しい一日が始まる。
窓から差し込む朝日を浴びて、シンチーが目を覚ました。
首だけをねじって肘枕の俺を見上げた。

 「寝なかったの?」
欠伸混じりに聞く。
「ああ。明日の朝は空港だから、
 少しでも時間を無駄にしたくないんだ。
 シンチーが俺の腕の中で眠ってる。
 鼓動や寝息や寝顔を楽しんでいたかった。」
俺の英語力では、伝えたいことの半分もシンチーには伝わらない。

身体の向きを変え、彼の方からキスを求めてきた。
薄目の唇に軽くキスをする。
何かもの足りなさそうだ。
もう一度唇を重ねた。
彼の唇が薄く開き、俺の舌を誘導する。
その隙間に舌を差し込み、彼の舌と絡めた。
ネットリした熱い粘膜が絡みつく。
二人の下半身は臨戦態勢だった。

唇を放すと、
 「今日は休みなんだ。
 だから、ずっと一緒にいられるよ。」
たまらなく嬉しいことを言ってくれる。
「本当かい?嬉しいな。
 今日一日じゃなくて、ずっと一緒にいたい。
 日本に連れて帰りたいよ。」

彼は困った顔をする。

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