俺はこの空が嫌いだ。

どんよりと低くたれ込めた厚い雲が、俺を圧迫するようにのし掛かってくる。
夏の抜けたような青空とはほど遠く、鉛色の重苦しい空。
日本海を渡ってきた湿った寒風が山肌にぶつかって
白い結晶を舞わせる日も近い。
また、春を待ちわびる日々が続くのか。うんざりだ。
かつて城下町であり、帝国海軍の軍港だったこの町は、
その名残を色濃く残し、今も灰色の鉄の塊が湾を行き来する。
白いセーラー服を身にまとい、颯爽と町を歩く若者を良く見かける。
豊もそんな一人だった。

豊、今、君はどうしているのだろう?
あまりにも突然の別れが、俺をこんなにも暗澹とした気分にさせる。
あの屈託のない笑顔はどこへ行ってしまったのだろう?
あまりにも突然の別れが、俺から笑みを奪ってしまった。
俺とは違う男に甘えてみせているのだろうか?
あまりにも突然の別れが、俺を苛立たせる。
豊。。。本当に心から愛していたのに。

俺は全てが嫌になり、何もかもを捨てるように、この町を離れたかった。
身の回りのものだけをバッグに詰め込み、旅行業者に駆け込んだ。
どこでもいい。今すぐどこかへ行きたい。
幸い、キャンセルで空きのあったツアーを見つけ、その足で関西国際空港へ向かった。
明日の夜の便で、香港へ旅立つ3泊4日のツアーだ。
空港島のホテルから夜の海を眺めながら、今はいない豊を思った。
彼を忘れるために旅立つのだ。豊のことを思いだしてどうする。
鏡のような窓に映った自分にタバコの煙を吹きかけた。
明日の夜は香港だ。

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